歯科医院のAI電話対応|予約変更・急患の受け方
診療中にユニットの横で電話が鳴り、受付スタッフは会計の途中、歯科衛生士は処置の最中。誰も手を離せないまま呼び出し音が続き、やがて切れてしまう。歯科医院では、こうした場面が日常的に起きています。電話の向こうにいるのは、予約を変更したい患者さんかもしれませんし、歯が痛くて今日診てもらえるか知りたい人かもしれません。
歯科医院の電話は、件数そのものよりも「鳴るタイミング」が問題になりやすい職場です。診療は予約制で動いており、スタッフの手は患者さんの対応にふさがっています。電話に出るために処置や会計を中断すれば、目の前の患者さんを待たせることになります。かといって出なければ、予約の変更やキャンセルの連絡が届かず、空いた枠を埋める機会も失われます。
この記事では、歯科医院に多い電話の用件を整理したうえで、IVR(自動音声応答)、診療時間に合わせた応答の切り替え、AIによる一次応答、スタッフへの引き継ぎを組み合わせて、電話対応の負担を減らす方法を解説します。前提として大切なのは、予約の確定や症状の判断は、あくまで医院のスタッフや歯科医師が行うということです。AIや自動応答が担うのは、用件を聞き取り、整理し、適切な人へ確実につなぐところまでです。
歯科医院の電話対応で起きがちな課題
まず、歯科医院の電話対応で起きやすい課題を整理します。自院に当てはまるものがあるか、確かめながら読んでみてください。
診療中に電話に出られない
歯科の診療では、スタッフが患者さんのそばを離れにくい場面が多くあります。処置の補助をしている歯科衛生士や歯科助手は、手袋をしたまま電話に出ることはできません。受付スタッフも、会計や次回予約の調整、来院した患者さんの受付で手がふさがっていることがよくあります。
小規模な医院では、受付が一人という時間帯も珍しくありません。その一人が電話に出れば、受付の前で患者さんが待つことになり、電話に出なければ、かけてきた人を待たせることになります。どちらを選んでも誰かを待たせてしまう、というのが歯科医院の電話の難しさです。
予約変更とキャンセルの連絡が集中する
歯科医院の電話で多いのが、予約の変更やキャンセルの連絡です。仕事の都合、体調、家族の予定など、理由はさまざまですが、こうした連絡は朝の診療開始前後や昼休みの前後など、特定の時間帯に集中しやすい傾向があります。
予約の変更は、空いている枠を確認し、患者さんの希望とすり合わせ、予約台帳を更新するという手順が必要です。一件あたりの時間は長くなくても、診療の合間に何件も続くと、スタッフの負担は大きくなります。また、連絡がつかないまま予約時間が来てしまうと、その枠は空いたままになってしまいます。
急な痛みや腫れの相談への対応
「昨日から歯が痛くて、今日診てもらえませんか」「詰め物が取れてしまったのですが」といった、急ぎの相談も歯科医院には多く寄せられます。かけてきた人にとっては切実な用件であり、つながらなければ不安が大きくなります。
一方で、こうした相談には、症状の聞き取りや当日の受け入れ可否の判断が必要です。どの程度急ぐべきか、当日の空き枠で対応できるか、別の医療機関を案内すべきかは、歯科医師や経験のあるスタッフが判断すべきことであり、電話を受けた人が機械的に答えてよいものではありません。
同じ問い合わせが何度も来る
「今日は何時まで診療していますか」「土曜日はやっていますか」「駐車場はありますか」「保険証は何を持っていけばいいですか」。歯科医院には、答えが決まっている問い合わせも数多く寄せられます。一つひとつは短く答えられる質問ですが、診療の合間に何度も中断されると、スタッフの集中が途切れてしまいます。
診療時間外の電話がそのままになる
診療が終わった夜間や休診日にも、電話はかかってきます。翌日の予約をキャンセルしたい人、急な痛みで困っている人、初診の予約を取りたい人。留守番電話を設定していても、メッセージを残さずに切ってしまう人は少なくありません。残されたメッセージも、聞き取りにくかったり、名前や連絡先が抜けていたりして、翌朝の折り返しに手間がかかることがあります。
よくある問い合わせの分類
電話対応を効率化する第一歩は、どのような用件の電話が来ているかを把握することです。歯科医院の電話は、おおまかに次のように分類できます。
分類1:予約に関する連絡
- 新規の予約(初診)
- 再診の予約
- 予約日時の変更
- 予約のキャンセル
- 予約の確認(「次の予約はいつでしたか」)
- 遅刻の連絡
予約に関する連絡は、歯科医院の電話の中でも大きな割合を占めやすい用件です。いずれも最終的には予約台帳を確認・更新する必要があるため、スタッフの対応が欠かせません。ただし、用件の聞き取りや、患者さんの名前・希望日時の記録までは、自動化しやすい部分でもあります。
分類2:急ぎの相談
- 急な痛みや腫れ
- 詰め物や被せ物が取れた
- 歯が欠けた、折れた
- 治療後の出血や違和感
- 入れ歯が合わない、壊れた
急ぎの相談は、症状の程度によって対応が大きく変わります。電話の仕組みの役割は、こうした相談を「急ぎ」として識別し、できるだけ早く判断できる人につなぐこと、またはつなげない時間帯であれば、案内すべき情報を伝えることです。症状について自動応答やAIが判断を下すことは避けなければなりません。
分類3:決まった答えがある問い合わせ
- 診療時間、休診日
- 場所、アクセス、駐車場
- 持ち物(保険証、診察券、お薬手帳など)
- 対応している診療内容の概要
- 支払い方法
これらは、医院として答えを決めておける問い合わせです。答えをあらかじめ整理しておけば、自動音声やAIの一次応答で案内しやすい用件です。ただし、診療内容に関する質問のうち、個別の症状や治療方針にかかわるものは、分類2や分類4として扱う必要があります。
分類4:個別の確認が必要な問い合わせ
- 治療内容や費用についての相談
- 前回の治療についての質問
- 紹介状や書類についての問い合わせ
- 訪問歯科についての相談
個別の事情にもとづく確認が必要な問い合わせは、スタッフや歯科医師が対応すべきものです。電話の仕組みでは、用件を聞き取って記録し、担当者からの折り返しにつなげることが中心になります。
分類5:その他
- 業者からの連絡
- 営業の電話
- 間違い電話
患者さん以外からの電話も一定数あります。これらを患者さんの電話と分けて扱えるようにしておくと、受付スタッフが対応すべき電話に集中しやすくなります。

自院の電話を分類するときは、一週間ほど、電話の用件を簡単に記録してみるのがおすすめです。「予約変更」「急ぎの相談」「診療時間の質問」といった程度の大まかな記録で構いません。どの用件が多いのか、どの時間帯に集中しているのかがわかれば、どこから手をつけるべきかが見えてきます。
営業時間外・繁忙時の受け方
電話の用件が整理できたら、次は「いつ、どのように受けるか」を決めます。歯科医院の電話は、診療時間中の忙しい時間帯と、診療時間外とで、受け方を分けて考えると整理しやすくなります。
診療時間中の繁忙時
診療時間中でも、朝の診療開始前後、昼休みの前後、夕方の混み合う時間帯など、電話が集中しやすい時間があります。このような時間帯に、すべての電話を受付スタッフが直接受けようとすると、対応しきれない電話が出てきます。
繁忙時の受け方として考えられるのは、次のような方法です。
- 用件を先に聞き分ける:自動音声で「予約の変更・キャンセルは1番、急ぎのご相談は2番、診療時間や場所のお問い合わせは3番」のように案内し、用件ごとに対応を分けます。
- 決まった答えは自動で案内する:診療時間や休診日、場所などは、録音した音声やAIの一次応答で案内し、スタッフが電話に出なくても済むようにします。
- 予約変更は折り返しにする:予約の変更やキャンセルは、名前と希望を聞き取って記録し、手の空いたタイミングでスタッフが折り返して確定します。
- 急ぎの相談は優先してつなぐ:急な痛みなどの相談は、受付スタッフや院内の決められた担当者に優先してつなぎます。
ここで大切なのは、すべての電話を同じように扱わないことです。急ぎの相談と、診療時間の問い合わせとでは、求められる対応の速さが違います。用件ごとに受け方を変えることで、限られた人手を本当に必要な電話に振り向けられます。
昼休み
昼休みは、スタッフが休憩を取る時間であると同時に、患者さんにとっては電話をかけやすい時間でもあります。仕事の休憩時間に予約の変更をしようとする人が多いためです。
昼休みの電話をどう受けるかは、医院の方針によって異なります。昼休みも受付スタッフが交代で電話に出る医院もあれば、昼休みは電話を自動応答に切り替える医院もあります。自動応答に切り替える場合は、「午後の診療は何時から」という案内に加えて、予約の変更やキャンセルの用件を聞き取って記録しておき、午後の診療開始前に折り返す、といった流れを作っておくと、患者さんを待たせすぎずに済みます。
診療時間外と休診日
診療時間外や休診日は、スタッフが電話に出られません。この時間帯の電話で大切なのは、次の三つです。
- 診療時間外であることを伝える:今は診療時間外であること、次の診療日と診療時間を案内します。
- 用件を記録として残せるようにする:予約の変更やキャンセル、折り返しの希望などを、名前や連絡先とあわせて残せるようにします。
- 急ぎの場合の案内をする:急な痛みやけがなど、急ぎの相談に対して、どこに相談すればよいかを案内します。
三つ目の急ぎの場合の案内は、医院として事前に方針を決めておく必要があります。たとえば、地域の休日・夜間の歯科診療の案内や、自治体が設けている医療の相談窓口など、医院として案内できる情報を整理しておき、それを伝えるようにします。どの窓口を案内するかは、地域や医院の状況によって異なるため、自治体や地域の歯科医師会などの公式な情報を確認したうえで決めてください。自動応答やAIが、症状の重さを判断して「様子を見て大丈夫です」などと伝えることは、避けなければなりません。
留守番電話の質を上げる
診療時間外の電話を留守番電話で受ける場合でも、案内の仕方を工夫するだけで、残されるメッセージの質は変わります。
- 「お名前、お電話番号、ご用件をお話しください」と、残してほしい項目をはっきり伝える
- 予約の変更やキャンセルの場合は、予約日時もあわせて残してもらうよう案内する
- 折り返しの目安(次の診療日の何時ごろか)を伝える
留守番電話のメッセージは、翌朝スタッフが聞き返して内容を書き起こす手間がかかります。メッセージの文字起こしや要約を使えば、内容を一覧で確認しやすくなり、折り返しの優先順位もつけやすくなります。

IVRとAI一次応答の設計例
ここからは、IVRとAIによる一次応答を組み合わせて、歯科医院の電話をどう設計できるか、具体的な例を見ていきます。あくまで一つの例ですので、自院の規模や診療体制に合わせて調整してください。
設計の基本方針
歯科医院の電話を設計するときは、次の方針を軸にすると、判断に迷いにくくなります。
- 急ぎの相談は、人に早くつなぐ:自動応答の中で長く待たせない。
- 決まった答えは、自動で案内する:スタッフの手を止めずに済む用件は、自動応答で完結させる。
- 予約の確定は、スタッフが行う:自動応答やAIは用件を聞き取って記録し、確定はスタッフの折り返しで行う。
- 症状の判断は、自動化しない:症状についての判断や助言は、歯科医師やスタッフに任せる。
診療時間中のメニュー例
診療時間中にかかってきた電話に対して、次のようなメニューを案内する例を考えてみます。
「お電話ありがとうございます。○○歯科医院です。ご用件に合わせて番号を押してください。急な痛みや腫れなど、お急ぎのご相談は1番。予約の変更やキャンセルは2番。初めての方のご予約は3番。診療時間や場所のお問い合わせは4番。その他のお問い合わせは5番を押してください。」
- 1番(急ぎの相談):受付スタッフの電話を鳴らします。一定時間出られなかった場合は、折り返しの依頼として名前と連絡先、症状の概要を記録し、スタッフの画面で目立つように表示します。
- 2番(予約の変更・キャンセル):名前、現在の予約日時、希望する変更内容を聞き取って記録します。スタッフは手の空いたタイミングで予約台帳を確認し、折り返して確定します。
- 3番(初診の予約):名前、連絡先、希望する日時の候補、来院の目的の概要を聞き取って記録し、スタッフが折り返して日時を確定します。
- 4番(診療時間・場所):診療時間、休診日、住所、駐車場の有無などを案内します。
- 5番(その他):受付スタッフにつなぐか、用件を記録して折り返しにします。
メニューの数は、多くても五つ程度に抑えるのがおすすめです。選択肢が多すぎると、かけてきた人が最後まで聞かないと選べず、急ぎの相談の人ほど負担を感じてしまいます。急ぎの相談を最初の番号にしているのも、急いでいる人が長い案内を聞かずに済むようにするためです。
AI一次応答を組み合わせる場合
番号を押してもらうIVRに加えて、AIによる一次応答を組み合わせる方法もあります。AIの一次応答では、かけてきた人が用件を言葉で話し、AIがその内容を聞き取って分類したり、決まった答えを案内したりします。
たとえば、「来週の火曜日の予約を変更したいんですが」と話してもらえれば、AIは用件を「予約の変更」として分類し、名前や希望の日時を聞き取って記録できます。「今日は何時まで開いていますか」という質問には、登録された診療時間をもとに答えられます。
ただし、AIの一次応答を使う場合も、次の点は変わりません。
- AIは予約を確定しない。用件と希望を聞き取り、スタッフの確認につなげる。
- AIは症状を判断しない。急ぎの相談とわかったら、スタッフにつなぐか、決められた案内をする。
- AIが答えるのは、医院が登録した情報の範囲に限る。わからないことは推測で答えず、折り返しを案内する。
AI一次応答の機能がどのような形で提供されているか、現在どこまで使えるかは、サービスによって異なります。AI-SNS.IO Callで利用できる機能の最新の状況は、機能一覧で確認してください。
声で話すか、番号を押すか
IVRの番号選択と、AIへの音声での話しかけには、それぞれ向き不向きがあります。
番号選択は、操作がはっきりしていて、聞き間違いが起きないのが利点です。一方で、選択肢が多いと案内が長くなり、自分の用件がどの番号に当たるのかわかりにくいこともあります。
音声での話しかけは、用件を自分の言葉で伝えられるため、かけてきた人にとって自然です。一方で、聞き取りの誤りが起きることがあるため、名前や日時などの大事な情報は復唱して確認するなどの工夫が必要です。
歯科医院では、急ぎの相談は番号選択で確実に振り分け、予約の変更などの用件は音声で聞き取る、といった組み合わせも考えられます。どちらか一方に決める必要はなく、用件ごとに向いている方法を選ぶとよいでしょう。
スタッフへの引き継ぎと確定は人が行う
電話対応を自動化するとき、もっとも大切なのは、自動応答やAIが受け持つところと、スタッフが受け持つところの境目をはっきりさせることです。歯科医院では、この境目を曖昧にすると、患者さんの不利益や医院の信頼の低下につながりかねません。
予約の確定はスタッフが行う
予約の変更や新規の予約は、自動応答やAIが聞き取った内容をもとに、スタッフが予約台帳を確認して確定します。AIが「その日時で予約をお取りしました」と伝えることはしません。
理由は、予約の確定には、自動化しにくい判断が含まれるからです。同じ「30分の枠」でも、治療の内容によって必要な時間は変わりますし、担当の歯科医師や歯科衛生士の都合、使う機材の空き状況も関係します。前回の治療の続きなのか、新しい症状なのかによっても、どの枠に入れるべきかが変わります。こうした判断は、医院の事情を知っているスタッフが行うのが確実です。
かけてきた人に対しては、「ご希望を承りました。スタッフが確認のうえ、折り返しご連絡いたします」のように、まだ確定していないことがはっきりわかる伝え方をします。確定したと誤解されると、当日に来院したのに予約が入っていない、といったトラブルにつながりかねません。
症状の判断は歯科医師やスタッフが行う
急な痛みや腫れなどの相談について、自動応答やAIが「すぐに受診が必要です」「様子を見ても大丈夫です」と判断することはしません。症状の判断は医療の専門的な判断であり、電話の仕組みが担うべきものではないからです。
自動応答やAIの役割は、急ぎの相談であることを識別し、スタッフに早くつなぐこと、つながらない場合は折り返しの依頼として確実に記録すること、そして診療時間外であれば医院が決めた案内を伝えることです。
引き継ぎで伝える情報
自動応答やAIからスタッフに引き継ぐときは、スタッフが折り返しや対応をすぐに始められるよう、必要な情報をまとめて渡します。
- かけてきた人の名前(読み)
- 折り返し先の連絡先
- 用件の分類(予約の変更、急ぎの相談、など)
- 用件の内容(現在の予約日時、希望の日時、症状の概要など)
- 電話がかかってきた日時
- 急ぎかどうか
これらの情報が整理されていれば、スタッフは折り返しの電話で、同じことを一から聞き直さずに済みます。かけてきた人にとっても、同じ説明を繰り返さなくてよいのは負担が少ないものです。
折り返しのルールを決める
自動応答やAIが用件を受けて記録しても、その後の折り返しが遅れてしまえば、かけてきた人の満足にはつながりません。引き継ぎの仕組みとあわせて、折り返しのルールも決めておきましょう。
- 誰が折り返すか:受付スタッフが担当するのか、用件によって担当を分けるのか。
- いつ折り返すか:急ぎの相談は優先して、予約の変更は午前の診療が終わるまでに、など。
- 折り返せなかったらどうするか:一度でつながらなかった場合に、何度まで、どのタイミングでかけ直すか。
- 対応済みをどう記録するか:誰がいつ対応したのかを記録し、対応漏れを防ぐ。
折り返しの状況を共有できる仕組みがあると、スタッフが交代しても対応が引き継がれやすくなります。AI-SNS.IO Callでは、IVRのメニューから折り返しの依頼を受け付ける機能や、留守番電話をキューごとに受ける機能などを利用できます。日本の電話番号の提供は準備中です。現在はデモで着信をシミュレーションして体験できます。詳しくは機能一覧と使い方ガイドをご覧ください。
人につなぐ条件を決めておく
自動応答やAIで対応している途中でも、次のような場合は、早めに人につなぐか、折り返しにする条件として決めておくと安心です。
- 急な痛み、腫れ、出血、けがなどの相談
- かけてきた人が「人と話したい」と希望した場合
- 用件がうまく聞き取れない状態が続いた場合
- 苦情や強い不満が伝えられた場合
- 医院が登録していない内容の質問
人につなぐ条件が決まっていないと、自動応答やAIが対応を続けてしまい、かけてきた人の不満が大きくなることがあります。条件はあらかじめ文書にしておき、スタッフ全員が共有しておきましょう。
個人情報と記録の扱い
歯科医院の電話には、患者さんの名前や連絡先に加えて、症状や治療の内容など、とりわけ慎重な扱いが求められる情報が含まれます。電話の仕組みを見直すときは、記録の扱いについてもあわせて確認しておく必要があります。
※この章は一般的な情報の整理であり、法的助言ではありません。具体的な対応は、専門家や関係機関の情報をご確認ください。
医療分野の個人情報についての公的な指針
医療機関における個人情報の扱いについては、個人情報保護委員会が、医療・介護関係事業者向けのガイダンスを公表しています。病歴などの情報は、個人情報の保護に関する法律の中で、取り扱いに特に配慮を要する情報として位置づけられています。電話の録音や文字起こし、要約にこうした情報が含まれることを前提に、取り扱いのルールを確認しておきましょう。
電話の記録で確認しておきたいこと
電話の仕組みを使うと、録音、留守番電話のメッセージ、文字起こし、要約など、さまざまな記録が残ります。次のような点を、医院として決めておきましょう。
- 何を記録するか:録音を行うのか、文字起こしや要約だけを残すのか。
- 録音することをどう伝えるか:録音を行う場合、かけてきた人にどのように伝えるか。
- 誰が見られるか:記録を確認できるスタッフの範囲をどうするか。
- どれくらいの期間残すか:記録の保存期間と、期間が過ぎた記録の扱いをどうするか。
- どこに保存されるか:記録がどのような環境に保存されるのか、サービスの提供者に確認する。
必要以上の情報を聞き取らない
自動応答やAIで用件を聞き取るときは、折り返しや予約の調整に必要な情報だけを聞き取るように設計します。たとえば、予約の変更であれば、名前、連絡先、現在の予約日時、希望の日時があれば十分です。症状についても、急ぎかどうかを判断するのに必要な範囲で概要を聞き取り、詳しい内容はスタッフや歯科医師が直接確認するようにします。
聞き取る情報が少ないほど、記録に含まれる慎重な扱いが必要な情報も少なくなり、管理の負担も軽くなります。
記録を見る人の範囲を決める
電話の記録は、受付スタッフが折り返しに使うだけでなく、院長が電話の状況を把握したり、対応の質を振り返ったりするのにも役立ちます。一方で、記録を見られる人が多いほど、情報が不適切に扱われる可能性も高まります。役割ごとに、どの記録を見られるようにするかを決めておきましょう。
導入の進め方
ここまでの内容をふまえて、歯科医院で電話の仕組みを見直すときの進め方を、段階ごとに紹介します。一度にすべてを変えようとせず、小さく始めて少しずつ広げていくのが、無理なく定着させるコツです。
ステップ1:今の電話の状況を把握する
まずは、今の電話の状況を把握します。一週間ほど、電話の用件と時間帯を簡単に記録してみましょう。電話に出られなかった件数や、折り返しにかかった手間も、わかる範囲でメモしておくと役立ちます。
記録を見返すと、「昼休み前後に予約変更の電話が集中している」「診療時間の問い合わせが思ったより多い」「夕方の診療時間外に初診の予約の電話がかかってきている」といった傾向が見えてくるはずです。
ステップ2:方針を決める
次に、用件ごとの受け方の方針を決めます。
- どの用件を自動で案内するか(診療時間、場所、持ち物など)
- どの用件を聞き取って折り返しにするか(予約の変更、初診の予約など)
- どの用件を人に優先してつなぐか(急ぎの相談など)
- 診療時間外の急ぎの相談に、何を案内するか
- 人につなぐ条件、折り返しのルール
方針は、院長と受付スタッフで話し合って決めるのがおすすめです。実際に電話を受けているスタッフの感覚は、設計の質を大きく左右します。
ステップ3:案内する情報を整える
自動応答やAIで案内する情報を整えます。診療時間、休診日、祝日の扱い、住所、アクセス、駐車場、持ち物、支払い方法など、患者さんからよく聞かれる情報を一つの文書にまとめておきましょう。
祝日の扱いは見落としやすいポイントです。国民の祝日は内閣府が公表しているため、祝日に休診するかどうか、振替休日はどうするかを決めて、案内に反映しておきます(参考:国民の祝日について(内閣府))。年末年始や夏季休暇などの臨時の休診も、早めに登録しておくと、案内の誤りを防げます。
ステップ4:小さく始める
いきなりすべての時間帯で自動応答を使うのではなく、まずは診療時間外だけ、あるいは昼休みだけといった形で、範囲を絞って始めるのがおすすめです。範囲を絞ることで、問題が起きたときの影響を小さく抑えられ、スタッフも新しい仕組みに少しずつ慣れることができます。
始める前には、スタッフが患者さん役になってテスト電話をかけ、案内がわかりやすいか、用件が正しく記録されるか、急ぎの相談が適切に扱われるかを確認しておきましょう。
ステップ5:記録を見て直す
運用を始めたら、定期的に記録を見返して、案内や設計を直していきます。
- 案内の途中で切られている電話が多くないか
- 「その他」に分類される用件が多すぎないか
- 聞き取りの誤りが多い項目はないか
- 折り返しが遅れている用件はないか
- かけてきた人から、わかりにくいという声がないか
最初から完璧な設計はありません。記録をもとに少しずつ直していくことで、自院に合った電話の受け方ができあがっていきます。
AI-SNS.IO Callでは、IVRのメニュー、診療時間に合わせた応答の切り替え、キューごとの留守番電話、折り返しの依頼、AIによる通話の要約などを組み合わせて設定できます。設定の手順は使い方ガイドで、利用できる機能は機能一覧で確認できます。実際に試してみたい場合は、アカウント登録から始められます。
歯科医院ならではの工夫
ここでは、歯科医院の電話で、ちょっとした工夫で負担を減らせるポイントをいくつか紹介します。
予約変更の聞き取り項目をそろえる
予約の変更を聞き取るときの項目を決めておくと、折り返しの手間が減ります。たとえば、「お名前」「現在のご予約日時」「変更をご希望の日時の候補(できれば複数)」「折り返し先のお電話番号」の四つをそろえておけば、スタッフは予約台帳を見ながら、すぐに調整を始められます。
希望の日時の候補を複数聞いておくのがポイントです。一つしか聞いていないと、その枠が埋まっていた場合に、もう一度電話でやりとりする必要が出てきます。
診察券番号を活用する
診察券に番号がある医院では、予約の変更などの際に診察券番号を聞き取っておくと、同じ名前の患者さんとの取り違えを防ぎやすくなります。ただし、手元に診察券がない人もいるため、番号がわからない場合でも用件を受け付けられるようにしておきましょう。
子どもの患者さんの連絡
小児歯科を行っている医院では、保護者から電話がかかってくることが多くなります。聞き取りの際には、かけてきた人の名前と、患者さん本人の名前を分けて記録するように設計しておくと、折り返しのときに混乱が起きにくくなります。
訪問歯科の問い合わせ
訪問歯科を行っている医院では、患者さんの家族や介護施設、ケアマネジャーなどから問い合わせが来ることがあります。こうした問い合わせは、確認すべき事項が多く、個別の調整が必要なため、外来の予約とは分けて、担当者への折り返しにつなげるとよいでしょう。
案内の言葉づかいをやさしくする
歯科医院に電話をかけてくる人の中には、痛みで不安を抱えている人や、歯科医院が苦手な人もいます。自動応答やAIの案内では、専門用語を避け、短く、やさしい言葉で話すように心がけましょう。「急な痛みや腫れなど、お急ぎの方は1番を押してください」のように、具体的な例を挙げると、自分がどの番号を選べばよいか判断しやすくなります。
電話以外の窓口との組み合わせ
電話の負担を減らすには、電話の仕組みを見直すだけでなく、電話以外の窓口との組み合わせを考えることも役立ちます。
たとえば、ホームページに診療時間や休診日、アクセス、持ち物などの情報をわかりやすく載せておけば、電話をかける前に答えを見つけられる人が増えます。電話の自動応答で案内している内容と、ホームページの内容をそろえておくと、患者さんが混乱しにくくなります。
予約の変更をオンラインで受け付けている医院では、電話の案内の中で、オンラインでも変更できることを伝えるのも一つの方法です。ただし、オンラインの操作が苦手な患者さんもいるため、電話で受け付ける道は残しておきましょう。
複数の窓口から問い合わせが届く場合は、それぞれの窓口の記録をまとめて確認できる仕組みがあると、対応漏れを防ぎやすくなります。AI-SNS.IO Callには、設定した窓口からの問い合わせをまとめて扱う受信箱の機能があります。どの窓口に対応しているかは機能一覧で確認してください。
見直しの際につまずきやすいポイント
電話の仕組みを見直す歯科医院が、つまずきやすいポイントもまとめておきます。あらかじめ知っておけば、避けられるものがほとんどです。
案内の文章が長くなりすぎる
伝えたいことが多いあまり、最初の案内に、診療時間、休診日、駐車場、感染対策のお願いなど、たくさんの情報を詰め込んでしまうことがあります。最初の案内が長いと、急いでいる人ほど途中で切ってしまいます。最初の案内は医院名と用件の選択だけにとどめ、詳しい情報は、選んだ用件の先で案内するようにしましょう。
「その他」に用件が集まってしまう
メニューの分け方が実際の用件と合っていないと、多くの電話が「その他」に集まり、結局スタッフがすべて受けることになります。運用を始めたら、「その他」に入った用件の中身を見て、多いものがあれば独立した選択肢にするなど、分け方を見直しましょう。
折り返しの担当が決まっていない
用件を記録する仕組みを作っても、誰がいつ折り返すのかが決まっていないと、記録がたまったままになってしまいます。「誰かがやるだろう」という状態が一番危険です。折り返しの担当と目安の時間を決め、対応済みの記録を残すようにしておきましょう。
案内している情報が古くなる
診療時間の変更や臨時の休診を、自動応答の案内に反映し忘れることがあります。案内している情報が実際と違うと、患者さんが来院してから閉まっていることに気づく、といったトラブルになりかねません。情報を変えるときの担当者と手順を決めておき、ホームページなどの情報と合わせて更新するようにしましょう。
スタッフへの説明が足りない
新しい仕組みの意図や流れがスタッフに伝わっていないと、記録の確認が漏れたり、患者さんからの質問に答えられなかったりします。導入前に、どの用件がどう流れるのか、自分は何をすればよいのかを、スタッフ全員で確認しておきましょう。
営業時間外の自動応答メッセージ例文もあわせてご覧ください(歯科医院のAI電話対応|予約変更・急患の受け方からの関連案内)。
業種別のAI電話対応ガイドもあわせてご覧ください(歯科医院のAI電話対応|予約変更・急患の受け方からの関連案内)。
関連する記事
歯科医院の電話を見直すときに、あわせて読んでおきたい記事を紹介します。
- AIによる電話の一次応答の全体像は、AI電話受付とはで解説しています。
- 診療時間外の電話の受け方は、営業時間外の電話対応が参考になります。
- 番号選択のメニューの作り方は、IVRメニューの設計で詳しく扱っています。
- 通話の記録を折り返しに活かす方法は、AI通話要約をご覧ください。
- 少人数で電話を受ける工夫は、小規模事業者の電話受付にまとめています。
- 医科のクリニックの場合はクリニックの電話対応、動物病院の場合は動物病院の電話対応も参考になります。
よくある質問
歯科医院の予約をAIが自動で確定してくれますか?
この記事で紹介している設計では、AIや自動応答は予約を確定しません。名前、現在の予約日時、希望の日時の候補などを聞き取って記録し、スタッフが予約台帳を確認したうえで折り返して確定します。治療内容や担当者の都合など、予約の確定にはスタッフの判断が必要な要素が多いためです。
急な痛みの電話に、AIが対応してもよいのでしょうか?
AIや自動応答が症状を判断したり、受診の要否を伝えたりすることは避けるべきです。急ぎの相談であることを識別して、スタッフに優先してつなぐ、つながらない場合は折り返しの依頼として目立つように記録する、診療時間外であれば医院が決めた案内を伝える、という役割にとどめます。
診療時間外の急ぎの電話には、何を案内すればよいですか?
医院として事前に方針を決めておく必要があります。地域の休日・夜間の歯科診療の案内や、自治体が設けている医療の相談窓口など、医院として案内できる情報を、自治体や地域の歯科医師会などの公式な情報で確認したうえで整理しておきましょう。案内する内容は、定期的に最新かどうかを確かめることが大切です。
電話のメニューはいくつくらいがよいですか?
多くても五つ程度に抑えるのがおすすめです。選択肢が多すぎると、最後まで聞かないと選べず、急いでいる人ほど負担を感じます。急ぎの相談を最初の番号にしておくと、急いでいる人が長い案内を聞かずに済みます。
留守番電話だけでは足りませんか?
留守番電話でも、残してほしい項目をはっきり案内するなどの工夫で、メッセージの質を上げられます。ただし、メッセージを残さずに切る人もいるため、用件ごとに受け方を分けるIVRや、聞き取りを助ける仕組みと組み合わせると、取りこぼしを減らしやすくなります。メッセージの文字起こしや要約があると、翌朝の確認も楽になります。日本の電話番号の提供は準備中です。現在はデモで着信をシミュレーションして体験できます。
小さな歯科医院でも、電話の仕組みを見直す意味はありますか?
あります。受付が少人数の医院ほど、電話一本で診療や会計が中断される影響が大きくなります。診療時間の案内を自動化する、昼休みや診療時間外だけ自動応答に切り替えるなど、小さな範囲から始めても、スタッフの負担を減らす効果が期待できます。
電話の録音や文字起こしに、患者さんの症状が含まれても問題ありませんか?
症状などの情報は、取り扱いに特に配慮が必要な情報です。何を記録するか、誰が見られるか、どれくらいの期間残すかなど、医院としてルールを決めておく必要があります。個人情報保護委員会が公表している医療・介護関係事業者向けのガイダンスなど、公的な情報を確認したうえで判断してください。この回答は一般的な情報であり、法的助言ではありません。
AIの聞き取りが間違っていたらどうなりますか?
聞き取りの誤りは起こりうるものとして設計しておくことが大切です。名前や日時などの大事な情報は復唱して確認する、記録はスタッフが確認したうえで折り返す、予約の確定はスタッフが行う、という流れにしておけば、誤りが患者さんの不利益につながる前に気づきやすくなります。
祝日や臨時休診の案内はどうすればよいですか?
祝日に休診するかどうか、振替休日はどうするかを決めて、案内に反映しておきます。国民の祝日は内閣府が公表しています。年末年始や夏季休暇、学会などによる臨時の休診も、決まり次第、早めに登録しておくと、案内の誤りを防げます。
スタッフが新しい仕組みに慣れるか心配です。
いきなりすべての時間帯で切り替えるのではなく、診療時間外や昼休みなど、範囲を絞って始めるのがおすすめです。始める前にスタッフがテスト電話をかけて流れを確かめておくと、運用の不安も減ります。方針を決める段階から受付スタッフに参加してもらうことも、定着の助けになります。
患者さんから「機械の案内はわかりにくい」と言われないか心配です。
案内の言葉を短く、やさしくすること、具体的な例を挙げることで、わかりにくさは減らせます。また、「人と話したい」という希望があればスタッフにつなぐ、または折り返しにする選択肢を用意しておくと安心です。運用を始めた後も、途中で切られている電話の傾向などを見て、案内を直していきましょう。
AI-SNS.IO Callでは、歯科医院向けにどのような設定ができますか?
AI-SNS.IO Callでは、IVRのメニュー、診療時間に合わせた応答の切り替え、キューごとの留守番電話、IVRのメニューからの折り返しの依頼、AIによる通話の要約などを組み合わせて設定できます。AIによる一次応答を含め、現在利用できる機能は機能一覧で確認してください。日本の電話番号の提供は準備中です。現在はデモで着信をシミュレーションして体験できます。
まとめ
歯科医院の電話は、スタッフの手がふさがりやすい診療の合間に鳴ることが多く、予約の変更、急ぎの相談、決まった問い合わせが入り混じっています。電話対応の負担を減らすには、まず用件を分類し、用件ごとに受け方を分けることが出発点になります。
決まった答えがある問い合わせは自動で案内し、予約の変更や初診の予約は聞き取って記録したうえでスタッフが折り返して確定し、急ぎの相談はスタッフに優先してつなぐ。診療時間外には、医院として決めた案内を伝え、用件を記録として残せるようにする。そして、予約の確定と症状の判断は、必ず人が行う。この線引きを守ることが、患者さんの安心と医院の信頼を両立させる鍵になります。
まずは一週間、電話の用件を記録するところから始めてみてください。どこに負担が集中しているのかが見えれば、どこから手をつけるべきかも自然と見えてきます。



