IVR・自動音声応答

IVRと音声AIエージェントの違い|使い分けと組み合わせ方

AI-SNS.IO 編集部 · 公開

IVRと音声AIエージェントの違い|使い分けと組み合わせ方(AI-SNS.IO Call ブログ)

電話の自動応答を検討するとき、多くの方が迷うのが「番号を押してもらうIVRにするか、話しかけるだけで用件を聞き取る音声AIエージェントにするか」という選択です。新しい技術のほうが優れているように見えますが、実際には両者は得意なことがはっきり違います。どちらか一方を選ぶというより、自社の電話の用件に合わせて役割を分けると、うまく働くことが多いのです。

この記事では、IVRと音声AIエージェントの仕組みの違いから、得意な問い合わせ、設計と運用の手間、誤った案内が起きるリスクの考え方、組み合わせのパターン、IVRから段階的に移行する進め方までを解説します。用件の棚卸しに使えるワークシートや、組み合わせの設計例も紹介しますので、自社の電話に当てはめながら読み進めてください。

IVRと音声AIエージェントの基本

IVRとは

IVR(自動音声応答)は、あらかじめ録音した、または読み上げ用に用意した案内を流し、電話をかけてきた人に番号のボタンを押してもらって、用件ごとに電話を振り分ける仕組みです。「ご予約の方は1を、営業時間のお問い合わせは2を、その他のご用件は3を押してください」という案内を、多くの人が一度は聞いたことがあるでしょう。

IVRの動きは、事業者が決めたメニューの木構造に沿って進みます。押された番号に応じて次の案内を流す、担当の部署や担当者に転送する、留守番電話につなぐ、折り返しの依頼を受け付ける、といった動作が、事前に決めたとおりに実行されます。押されたボタンの信号は機械が確実に読み取れるため、聞き間違いが起こりにくいのが特徴です。基本の仕組みはIVRとはで詳しく解説しています。

音声AIエージェントとは

音声AIエージェントは、電話をかけてきた人が自分の言葉で話した内容を聞き取り、会話の形で対応する仕組みです。多くの場合、相手の声を文字にする音声認識、文字の意味をとらえて返事を考える言語モデル、返事を声にする音声合成の三つを組み合わせて動いています。

「来週の土曜日に予約したいんですけど」と話しかければ、日時や人数を聞き返し、内容を記録する。「駐車場はありますか」と聞かれれば、登録された情報をもとに答える。メニューの番号を覚える必要がなく、ふだんの会話に近い形で用件を伝えられるのが特徴です。AIを使った電話受付の全体像は、AI電話受付とはでまとめています。

一番大きな違いは「入力の確かさ」と「表現の自由さ」

両者の違いを一言でまとめると、IVRは入力が確かで、音声AIエージェントは表現が自由、ということになります。

IVRでは、電話をかけてきた人が選べるのは、事業者が用意した選択肢だけです。そのかわり、選んだ結果は確実に読み取れます。音声AIエージェントでは、電話をかけてきた人は自由に話せますが、その内容をAIが正しく理解できるとは限りません。

この違いが、得意な問い合わせ、設計の手間、誤った案内のリスク、引き継ぎの設計など、あらゆる面に影響してきます。

入力の方法、確かさ、情報の聞き取り、振る舞いの予測、主な調整の比較
図1:IVRと音声AIエージェントの違い

得意な問い合わせの違い

IVRが得意な問い合わせ

IVRが力を発揮するのは、用件の種類が限られていて、それぞれの行き先がはっきりしている場合です。

音声AIエージェントが得意な問い合わせ

音声AIエージェントが力を発揮するのは、用件の種類が多く、メニューで分けるとかえってわかりにくくなる場合や、電話をかけてきた人から情報を聞き取る必要がある場合です。

苦手なことも裏返しになる

両者の苦手なことは、得意なことの裏返しです。IVRは、選択肢が増えると案内が長くなり、電話をかけてきた人が途中で迷ったり、あきらめて切ってしまったりします。選択肢に当てはまらない用件の人は、「その他」を選ぶしかありません。メニューの作り方はIVRメニュー設計のコツで解説しています。

音声AIエージェントは、聞き取りの誤りが起こりえます。固有名詞、数字、短い返事、周囲が騒がしいときの声などは、誤りが起きやすい傾向があります。また、登録していない質問に、もっともらしい答えを返してしまうリスクもあります。この点は後の章で詳しく取り上げます。

比較表で整理する

観点IVR音声AIエージェント
入力の方法番号のボタン自由な言葉
入力の確かさ高い聞き取りの誤りが起こりうる
用件の種類が多いとき案内が長くなる言葉で受け止められる
情報の聞き取り苦手(番号以外は録音で残す)得意(会話で聞き取って記録する)
振る舞いの予測決めたとおりに動く応答の内容に幅がある
主な調整メニューと案内の文章ナレッジ、話し方、引き継ぎの条件

設計と運用の手間

「AIなら設定がいらない」「IVRは古いから手間がかかる」と思われがちですが、どちらにも固有の準備と運用の手間があります。手間の種類が違うと考えるのが正確です。

IVRの設計で決めること

IVRの設計は、メニューの木構造を決める作業が中心です。

  1. 入口のメニュー:最初に提示する選択肢を決めます。数は多くても四つから五つ程度に抑えるのが一般的です。
  2. 各選択肢の行き先:押された番号ごとに、転送先、案内、留守番電話、折り返しの受け付けなどを決めます。
  3. 時間帯による切り替え:営業時間内と営業時間外で、同じ番号を押したときの行き先を変えます。詳しくは営業時間で着信を振り分ける方法で解説しています。
  4. 案内の文章:読み上げる文章を、短く、聞き取りやすく書きます。
  5. つながらなかったときの行き先:転送先が話し中や不在のときに、どこにつなぐかを決めます。
  6. 入力がなかったときの扱い:何も押されなかったとき、間違った番号が押されたときに、案内を繰り返すか、代表の窓口につなぐかを決めます。

設計の範囲がはっきりしているため、一度決めてしまえば、振る舞いは予測しやすくなります。

音声AIエージェントの設計で決めること

音声AIエージェントの設計は、「何を話してよいか」「何を聞き取るか」「いつ人に渡すか」を決める作業が中心です。

  1. 役割の定義:電話の目的、名乗り方、対応する用件の範囲を決めます。
  2. ナレッジ:AIが答えるときに参照する情報(営業時間、所在地、料金の案内先、よくある質問の答えなど)を用意します。
  3. 聞き取る項目:用件ごとに、名前、連絡先、希望の日時など、記録する項目を決めます。
  4. 確認の手順:聞き取った内容を復唱して確かめる場面を決めます。
  5. 答えてはいけないこと:推測で答えてはいけない質問、個別の判断が必要な質問を決め、担当者に渡すようにします。
  6. 引き継ぎの条件:「人と話したい」と言われたとき、急ぎの用件、苦情など、人に渡す条件と渡し方を決めます。

設計の範囲が広く、文章で書かれた指示や情報の質が、応答の質を左右します。

運用で発生する手間

運用が始まった後の手間も、性質が違います。

運用の作業IVR音声AIエージェント
変更が必要になるきっかけ部署の変更、営業時間の変更、メニューの追加情報の変更、新しい質問、聞き取りの誤り
変更の内容メニューの構造や行き先、案内の文章ナレッジ、指示の文章、引き継ぎの条件
確認の方法押した番号どおりに動くかを試す会話のテストと、通話の記録の読み返し
確認の頻度変更したとき変更したときに加えて定期的に

IVRは、変更したときに一通り試せば、その後は同じように動き続けます。音声AIエージェントは、同じ質問でも言い方が違えば応答が変わりうるため、通話の記録を定期的に読み、想定外の会話がないかを確認し続ける必要があります。

用件の棚卸しワークシート

どちらが向いているかを判断するには、まず自社の電話の用件を書き出すことから始めます。一週間から二週間、かかってきた電話を次のような表に記録してみましょう。

用件行き先は決まっているか聞き取る情報答えは決まっているか急ぎか向いている仕組み
例:営業時間の確認案内のみなし決まっているいいえIVRの案内、またはAIの回答
例:予約の希望予約担当名前、日時、人数、連絡先確定は担当者いいえAIで聞き取り、担当者が確定
例:故障の連絡技術担当場所、症状、連絡先個別の判断はいIVRで切り分けて人に転送
例:取引先からの連絡担当者会社名、担当者名個別場合によるIVRで振り分け、不在なら折り返し

記入した後で、次の三つを数えてみます。

一つ目が多いならIVRが、二つ目が多いなら音声AIエージェントが向いています。三つ目の用件は、どちらを選ぶ場合でも、人に確実につながる入口を残しておく必要があります。

誤案内リスクの考え方

自動応答の仕組みを選ぶうえで、最も慎重に考えたいのが、誤った案内をしてしまうリスクです。IVRと音声AIエージェントでは、誤りの起こり方がまったく違います。

IVRで起きる誤り

IVRの誤りは、ほとんどが設計の誤りです。押された番号を読み違えることはまずありませんが、次のような誤りは起こります。

こうした誤りは、設定を変えたときにすべての番号を試す、案内の文章を定期的に聞き直す、といった確認で防げます。誤りがあれば、同じ条件の電話すべてで同じように起きるため、見つけやすいのも特徴です。

音声AIエージェントで起きる誤り

音声AIエージェントの誤りは、設計の誤りに加えて、聞き取りと応答の誤りが加わります。

これらの誤りは、同じ条件でも毎回起きるとは限らないため、見つけにくいのが厄介な点です。

誤りの影響の大きさで仕組みを選ぶ

すべての誤りを防ぐことはできません。そこで、用件ごとに「誤ったときの影響の大きさ」を考えて、仕組みを選びます。

誤ったときの影響例向いている設計
小さい駐車場の有無、最寄り駅AIが登録情報から答える
中程度予約の希望、資料の請求AIが聞き取り、復唱して確かめ、担当者が確定する
大きい健康、安全、お金、契約に関わる用件番号で切り分け、人が対応する

影響が大きい用件ほど、聞き取りに頼らないIVRの入口と、人による対応を組み合わせるのが安全です。

音声AIエージェントの誤りを減らす設計

音声AIエージェントを使う場合は、次のような設計で誤りの影響を小さくできます。

  1. 答える範囲をナレッジに限る:登録していない質問には「確認して折り返します」と答えるよう指示します。
  2. 大事な情報は復唱する:日時や人数、連絡先は一文にまとめて読み上げ、相手に確かめてもらいます。
  3. 確定しない言い方を決める:予約や申し込みは「ご希望を承りました。担当者が確認のうえご連絡します」と伝え、確定はスタッフが行います。
  4. 人への道を常に開けておく:「人と話したい」と言われたら、必ず人か折り返しにつなぎます。
  5. 記録を読み返す:通話の記録を定期的に読み、誤りの傾向を見つけて直します。

AIに任せないほうがよい用件の考え方は、AI電話受付にできないことで詳しく解説しています。

誤りに気づける仕組みをつくる

誤りを減らすのと同じくらい大切なのが、誤りに気づける仕組みです。IVRであれば、「つながった先の担当者が、違う用件の電話を受けた」ことを記録しておくと、メニューの言葉がわかりにくいことに気づけます。音声AIエージェントであれば、聞き取った内容と、担当者が折り返したときに確かめた内容が違っていたことを記録しておくと、聞き取りの誤りの傾向が見えてきます。

どちらの場合も、現場の担当者が「おかしい」と思ったことを気軽に書き留められる場所を用意し、設計を見直す担当者がそれを定期的に確認する流れをつくりましょう。

組み合わせのパターン

IVRと音声AIエージェントは、組み合わせることで、互いの弱点を補えます。代表的な組み合わせのパターンを六つ紹介します。

着信、IVRで用件を選ぶ、急ぎは人へ、聞き取りはAIへ、記録を担当者が確認する流れ
図2:IVRで入口を分けてAIに渡す組み合わせ

パターン1:IVRで入口を分け、一部の用件だけAIに渡す

最初にIVRで大きく用件を分け、聞き取りが必要な用件だけを音声AIエージェントに渡す形です。

お電話ありがとうございます。〇〇でございます。お急ぎの修理のご依頼は1を、ご予約やお見積もりのご希望は2を、その他のご用件は3を押してください。

1を押した人は担当者に転送し、2を押した人は音声AIエージェントが希望の日時や連絡先を聞き取り、3を押した人は代表の窓口につなぐ、という設計です。急ぎの用件は聞き取りに頼らず確実に人に届き、聞き取りが必要な用件だけをAIに任せられます。

向いている場面:急ぎの用件と、そうでない用件がはっきり分かれている業種(設備の修理、医療機関、不動産の管理など)

パターン2:AIが最初に応答し、迷ったら番号の選択に切り替える

最初に音声AIエージェントが用件を聞き、理解できなかったときや、聞き返しが続いたときに、番号の選択に切り替える形です。

AI:ご用件をお話しください。(聞き取れない状態が二回続く)AI:申し訳ございません。ご予約は1を、それ以外のご用件は2を押してください。

自然な会話での受け付けを基本にしながら、聞き取りがうまくいかない場面でも、電話をかけてきた人が行き詰まらないようにできます。

向いている場面:用件の種類が多く、メニューで分けにくい業種。ただし、騒がしい環境からの電話が多い場合は、パターン1のほうが安定します。

パターン3:時間帯で使い分ける

営業時間内はIVRで担当者に振り分け、営業時間外は音声AIエージェントが用件を聞き取って記録する形です。営業時間内は人が対応できるため、確実な振り分けを優先し、営業時間外は人がいないため、用件をできるだけ詳しく残すことを優先します。

向いている場面:日中は担当者が電話に出られるが、夜間や休日の問い合わせを取りこぼしている会社

パターン4:IVRの「その他」の受け皿をAIにする

IVRのメニューはそのまま残し、「その他のご用件」を選んだ人だけを音声AIエージェントにつなぐ形です。「その他」に流れた電話は、どの部署に回せばよいかわからず、たらい回しになりがちです。AIが用件の内容を聞き取って記録しておけば、担当を判断しやすくなります。

向いている場面:すでにIVRを使っていて、「その他」に流れる電話の扱いに困っている会社

パターン5:IVRで振り分け、担当者が出られないときにAIが受ける

IVRで部署や担当に振り分けた後、担当者が話し中や不在のときだけ、音声AIエージェントが用件を聞き取る形です。留守番電話の代わりに、聞き取る項目を決めたうえで受け付けられるため、担当者は折り返す前に用件を把握できます。

向いている場面:少人数の部署で、担当者が席を外していることが多い会社

パターン6:AIが用件を聞き取り、IVRの行き先に振り分ける

電話をかけてきた人には話しかけてもらい、AIが聞き取った用件をもとに、IVRで設定した行き先(部署のキュー、担当者、留守番電話、折り返しの受け付け)に振り分ける形です。電話をかけてきた人はメニューを聞かずに済み、事業者はIVRで管理してきた行き先の設計をそのまま生かせます。

ただし、AIが用件を取り違えると、違う部署に電話が回ってしまいます。振り分けの前に「〇〇についてのお問い合わせですね」と確かめる一言を入れ、違っていれば言い直してもらう、または番号の選択に切り替えるようにしておきましょう。

向いている場面:部署の数が多く、メニューが長くなりがちな会社

パターンを選ぶときのチェックリスト

AI-SNS.IO Callで組み立てる場合

AI-SNS.IO Callでは、IVRのメニューと着信のルーティング、営業時間に合わせた切り替え、キューごとの留守番電話、IVRのメニューからの折り返しの依頼、名前で担当者を呼び出すディレクトリなどを組み合わせて、入口の設計を行えます。日本の電話番号の提供は準備中です。現在はデモで着信をシミュレーションして体験できます。通話の記録にはAIによる要約を残せるため、担当者が折り返す前に内容を把握しやすくなります。AIによる応答の提供状況を含め、現在利用できる機能は機能一覧で確認してください。設定の手順は使い方ガイドにまとめています。

文章の書き方の違い

IVRと音声AIエージェントでは、事業者が書く文章の種類も違います。IVRでは電話をかけてきた人が聞く「案内の文章」を書き、音声AIエージェントでは、それに加えてAIに向けた「指示の文章」を書きます。

IVRの案内の文章を書くコツ

音声AIエージェントへの指示の文章を書くコツ

指示の文章は、新しく入ったスタッフに電話対応を教えるときのメモに近いものです。次の点を具体的に書きます。

指示があいまいだと、AIは状況に応じて独自に判断しようとします。新しいスタッフが迷いそうな点を、先回りして書いておくことが大切です。

テストで確認することの違い

確かめることIVR音声AIエージェント
行き先すべての番号を押して確かめる用件の言い方を変えて確かめる
案内の内容録音や読み上げを聞き直す登録情報と答えが一致するかを確認する
想定外の入力何も押さない、範囲外の番号を押す登録していない質問、言い直し、途中での割り込み
時間帯営業時間内外、祝日で行き先が変わるか時間帯で案内の内容が変わるか
引き継ぎ転送先が出ないときの行き先「人と話したい」への反応、記録の届き方

IVRは押せる番号の数だけ試せば網羅できますが、音声AIエージェントは言い方の組み合わせが無数にあるため、すべてを試すことはできません。代表的な言い方を一覧にしてテストし、本番の記録で見つかった新しい言い方を一覧に足していく、という進め方になります。

体制と費用の考え方

仕組みを選ぶときは、機能だけでなく、社内の体制と費用の構造もあわせて考えます。具体的な料金はサービスによって異なるため、ここでは考え方の観点を整理します。

体制の観点

費用の観点

検討しているサービスの最新の料金や条件は、各サービスの公式の案内で確認してください。

導入後に見ておきたい項目

どちらの仕組みを選んだ場合も、導入後は次のような項目を定期的に見ておくと、改善の手がかりになります。数を正確に数えることより、変化の傾向をつかむことが大切です。

聞き直しが多い場合は、AIが聞き取る項目や、IVRで選ぶ用件の分け方が、担当者の必要な情報と合っていない可能性があります。

移行の進め方

すでにIVRを使っている会社が、音声AIエージェントを取り入れる場合、すべてを一度に置き換えるのはおすすめできません。今のIVRで確実に動いている部分を残しながら、段階的に広げていくほうが、電話をかけてくる人にとっても、社内にとっても負担が小さくなります。

ステップ1:今のIVRの記録を読む

まず、今のIVRで、どの番号がどれくらい選ばれているか、どの選択肢で電話が切られているか、「その他」に流れた電話がどんな用件だったかを確認します。記録が取れていない場合は、受けた担当者に、一定期間だけ用件をメモしてもらいましょう。

確認するときの観点は次のとおりです。

ステップ2:AIに任せる最初の範囲を決める

記録をもとに、最初にAIに任せる範囲を一つに絞ります。たとえば、「営業時間外の電話の用件の聞き取り」や、「『その他』を選んだ人の用件の聞き取り」など、範囲がはっきりしていて、誤ったときの影響が小さいものから始めます。

最初の範囲を選ぶときは、「AIがうまく対応できなくても、今より悪くならない電話」を選ぶのがコツです。たとえば、今は留守番電話に何も残さずに切られている営業時間外の電話であれば、AIの聞き取りが一部うまくいかなくても、何も残らない今の状態よりは前進です。

範囲を決めたら、次の三つを書き出します。

  1. AIが聞き取る項目
  2. AIが答えてよいことと、答えてはいけないこと
  3. AIが対応できなかったときの行き先

ステップ3:テストする

本番の電話につなぐ前に、社内でテスト通話を繰り返します。設計に関わっていない人にもかけてもらい、次の点を確認します。

ステップ4:小さく始めて記録を読む

テストで問題がなければ、決めた範囲だけで本番を始めます。始めてからの最初の一週間は、できるだけ毎日、AIが受けた電話の記録を読みます。聞き取りの誤り、答えられなかった質問、途中で切られた電話を書き出し、ナレッジや指示の文章、引き継ぎの条件を直していきます。

ステップ5:範囲を広げるかを判断する

最初の範囲で問題が落ち着いたら、次に任せる範囲を検討します。範囲を広げるたびに、ステップ2から4を繰り返します。逆に、記録を読んで「この用件はIVRと人のほうが確実だ」とわかった場合は、その用件をIVRに戻す判断も大切です。移行は一方通行ではありません。

移行でよくある失敗

最初のメニューをいきなり廃止する

番号の選択に慣れている常連のお客様が、急に話しかけるよう求められて戸惑うことがあります。しばらくは番号の選択も残し、話しかけても番号を押しても進めるようにしておくと、移行がなめらかになります。

AIに任せる範囲を広げすぎる

「せっかくなら全部AIに」と範囲を広げると、テストしきれない会話が増え、誤りに気づくのが遅れます。範囲は一つずつ広げましょう。

担当者に記録が届かない

AIが聞き取った内容が、担当者が普段見ない場所に溜まっていると、折り返しが遅れます。記録の届け先と、確認する担当者、確認するタイミングを、始める前に決めておきます。

IVRの設定を見直さない

AIを加えたことで、IVRの案内や行き先も変わることがあります。AIにつなぐ番号の案内の文章、時間帯の切り替え、つながらなかったときの行き先を、あわせて確かめましょう。

同じ用件を、IVRとAIで設計すると

違いを具体的に感じていただくために、「美容室の予約の電話」という同じ用件を、IVRと音声AIエージェントのそれぞれで設計した例を比べてみます。

IVRで設計した場合

お電話ありがとうございます。〇〇美容室です。ご予約のお客様は1を、ご予約の変更やキャンセルは2を、営業時間や場所のご案内は3を、その他のご用件は4を押してください。

1を押した人は、施術中でなければスタッフに転送し、スタッフが出られなければ、折り返しの依頼を受け付けます。3を押した人には、営業時間と場所の案内を流します。

案内は確実ですが、予約の希望の日時やメニューは、スタッフが折り返して聞き取る必要があります。

音声AIエージェントで設計した場合

AI:お電話ありがとうございます。〇〇美容室の自動受付です。ご用件をお話しください。お客様:来週の金曜日の夕方に、カットとカラーをお願いしたいんですけど。AI:ご予約のご希望ですね。来週の金曜日の夕方、カットとカラーでよろしいでしょうか。お客様:はい。AI:お名前とご連絡先の電話番号をお願いします。(名前と電話番号を聞き取り、復唱して確かめる)AI:ありがとうございます。ご希望を承りました。空き状況を確認のうえ、スタッフからご連絡いたします。まだ予約は確定していませんので、ご連絡をお待ちください。

スタッフは、折り返す前に希望の内容を把握できます。一方で、日時や名前の聞き取りの誤りが起こりうるため、復唱と、スタッフが折り返して確定する流れが欠かせません。

組み合わせた場合

お電話ありがとうございます。〇〇美容室です。新しいご予約は1を、ご予約の変更やキャンセルは2を、その他のご用件は3を押してください。

1を押した人には音声AIエージェントが希望を聞き取り、2を押した人には変更が当日に関わる場合もあるため、スタッフに転送し、出られなければ折り返しの依頼を受け付けます。3を押した人には、AIがよくある質問に答え、答えられない場合は用件を記録します。

業種別の使い分けの例

業種によって、電話の用件や急ぎ具合は大きく違います。代表的な業種での使い分けの例を紹介します。あくまで考え方の例ですので、自社の電話の記録をもとに調整してください。

クリニック・歯科医院

症状に関する相談は、AIに判断させず、番号で切り分けてスタッフにつなぎます。予約の希望や変更は、AIが聞き取ってスタッフが確定します。診療時間や休診日の案内は、IVRの案内でもAIの回答でも対応できます。業種別の詳しい設計は歯科医院の電話対応で紹介しています。

飲食店

営業時間、定休日、場所、駐車場などの質問が多いため、AIの回答が役立ちます。予約の希望はAIが聞き取ってスタッフが確定し、アレルギーなど健康に関わる質問はスタッフにつなぎます。ピーク時の電話の扱いは飲食店の電話対応も参考にしてください。

設備の修理・管理

急ぎの修理の依頼が多いため、入口のIVRで「お急ぎの方は1」と切り分けて、担当者に確実につなぐのが基本です。急ぎでない見積もりや点検の依頼は、AIが場所や症状、希望の日時を聞き取ります。

BtoBの企業

部署ごとの振り分けが中心であれば、IVRと名前で担当者を呼び出すディレクトリが向いています。取引先からの「担当の〇〇さんをお願いします」という電話は、担当者が不在のときにAIや留守番電話で用件を残してもらい、折り返します。

士業の事務所

相談内容には慎重な扱いが必要な情報が含まれやすいため、AIには相談の申し込みの受け付けと分野の聞き取りまでを任せ、詳しい内容は担当者が直接聞きます。既存の依頼者からの連絡は、IVRで分けて担当者に転送します。

不動産会社

物件の問い合わせは、物件名、希望の内見日時、連絡先などの聞き取りが多いため、音声AIエージェントが向いています。ただし、空き状況は日々変わるため、AIに「空いています」と断定させず、担当者が最新の状況を確認して折り返します。入居者からの設備の故障の連絡は、IVRで切り分けて管理の担当者につなぎます。

通信販売・ECの事業者

注文の状況、配送、返品など、用件の種類ははっきりしているものの、注文番号や名前の聞き取りが必要になります。入口はIVRで用件を分け、注文番号などの確認が必要な用件は、担当者が記録を見て対応する形が安全です。番号の聞き取りに誤りが起きると別の注文の情報を伝えてしまうおそれがあるため、注文に関わる個別の情報をAIに案内させるのは慎重に検討しましょう。

どちらから始めるかを決める五つの問い

ここまでの内容を踏まえて、自社がどちらから始めるとよいかを判断するための問いを五つ用意しました。順に答えてみてください。

問い1:電話の用件は、五つ以内に分けられますか

分けられるなら、まずはIVRで入口を整えるのが近道です。分けにくい、「その他」が多いという場合は、音声AIエージェントによる聞き取りが役立つ可能性があります。

問い2:電話をかけてきた人から、聞き取る情報は多いですか

名前、日時、連絡先、用件の概要など、毎回聞き取る情報が多いなら、音声AIエージェントが向いています。行き先さえ決まればよいなら、IVRで足ります。

問い3:急ぎの用件や、誤ったときの影響が大きい用件はありますか

あるなら、どちらを選ぶ場合でも、番号で確実に人につなぐ入口を残します。

問い4:通話の記録を定期的に読む担当者を決められますか

決められるなら、音声AIエージェントの改善を続けられます。決められない場合は、まずはIVRで振る舞いが予測しやすい仕組みから始め、体制が整ってからAIを加えるほうが安全です。

問い5:電話をかけてくる人は、番号の選択に慣れていますか

取引先や常連のお客様が多く、今のIVRに慣れているなら、IVRを残したまま一部にAIを加える形がなめらかです。初めてかける人が多いなら、話しかけるだけで用件を伝えられる仕組みが負担を減らします。

よくある質問

IVRはもう古い仕組みなのでしょうか?

古いから劣っている、ということはありません。番号の選択は聞き取りの誤りが起きにくく、振る舞いを予測しやすいという強みがあります。急ぎの用件の切り分けや、部署への振り分けでは、今でも確実な方法です。音声AIエージェントと組み合わせて使うことで、それぞれの強みを生かせます。

音声AIエージェントだけで、IVRをなくすことはできますか?

用件の種類や電話の状況によっては可能ですが、急ぎの用件や、騒がしい環境からの電話がある場合は、番号の選択を残しておくほうが安全です。少なくとも、聞き取りがうまくいかなかったときに番号の選択や人に切り替えられる逃げ道を用意しておきましょう。

お客様は、番号を押すのと話しかけるのと、どちらを好みますか?

お客様の年齢層、用件、電話をかける環境によって異なり、一概には言えません。自社のお客様の反応を知るには、両方を選べる形で始め、途中で切られた電話や、人への引き継ぎを求められた電話の記録を見て判断するのが確実です。

音声AIエージェントは予約まで完了させられますか?

おすすめする設計では、AIは予約の希望を聞き取って記録し、確定はスタッフが空き状況や条件を確かめてから行います。聞き取りの誤りが起こりうるため、AIが確定まで行うと、誤った内容で予約が入るおそれがあるからです。お客様には「確認のうえご連絡します」と伝えます。

IVRのメニューを作り直すタイミングはいつですか?

部署や担当の変更、新しいサービスの開始、営業時間の変更があったときに加えて、「その他」に流れる電話が増えたとき、特定の選択肢で切られる電話が増えたときも、見直しのきっかけになります。音声AIエージェントを加えるタイミングも、メニューを整理するよい機会です。

どちらを選んでも、人の対応は必要ですか?

必要です。IVRも音声AIエージェントも、電話の最初の対応を受け持つ仕組みであり、個別の判断や、確定、苦情への対応は人が行います。自動の仕組みで用件を整理しておくことで、人は判断が必要な対応に時間を使えるようになります。

IVRと音声AIエージェントを、同じ電話番号で組み合わせられますか?

組み合わせられるかどうかは、使う仕組みによって変わります。よくある形は、最初にIVRで大きな用件を分け、一部のメニューだけ音声AIエージェントに回す、あるいは、音声AIエージェントで聞き取れなかったときにIVRのメニューに戻す、といったものです。どこで切り替えるかを決め、試験の通話で切り替えの前後の案内が自然につながるかを確かめましょう。日本の電話番号の提供は準備中です。現在はデモで着信をシミュレーションして体験できます。

音声AIエージェントが聞き間違えたときは、どうなりますか?

聞き間違いに備えて、大切な情報を復唱して確かめる、うまく聞き取れないときは言い直しをお願いする、何度か失敗したら担当者や折り返しに切り替える、といった流れを設計しておきます。IVRのボタン操作に比べて、話しかける方式は聞き間違いの余地があるため、確かめの手順を省かないことが大切です。

高齢のお客様が多い場合は、どちらが向いていますか?

一概には言えません。ボタンの操作に慣れている人もいれば、話しかけるほうが楽な人もいます。どちらを使う場合も、案内をゆっくり、短くする、担当者につなぐ方法を早めに案内する、といった配慮が役立ちます。実際のお客様に近い人に試してもらい、迷う場面がないかを確かめましょう。

導入した後、どちらがうまく機能しているかをどう確かめればよいですか?

途中で切られた電話の割合、担当者に回った電話の割合、用件を間違えて回された電話の数、お客様の声などを見ます。IVRならメニューごとの選ばれ方、音声AIエージェントなら聞き取りに失敗した場面を確かめると、改善する場所が分かります。導入の前の数字を記録しておくと、比べやすくなります。

小さな会社でも音声AIエージェントを使う意味はありますか?

用件の種類が少なく、IVRの短いメニューで足りる会社も多くあります。一方で、営業時間外に用件だけ聞き取っておきたい、といった目的がはっきりしているなら、小さな会社でも役立つ場面があります。まずは今の電話の用件を書き出し、IVRで足りない部分があるかどうかから考えましょう。

まとめ

IVRと音声AIエージェントは、新旧の違いではなく、得意なことの違いで選ぶものです。

まずは一週間から二週間、自社の電話の用件を書き出すところから始めてみてください。IVRのメニューや営業時間のルール、折り返しの受け付けの設計は、AI-SNS.IO Callで試せます。アカウント登録から始めて、使い方ガイドを見ながら、自社の電話の入口を組み立ててみましょう。

IVRメニューと営業時間ルールを、Callで設計してみる

デモコンソールでは、着信をシミュレーションで体験できます。

関連記事